- 構造設計者はシミュレーションは必要ないよね?
- シミュレーション知識はどの程度必要でどうやって使えばいいの?
- シミュレーションは複雑でうまく使えない。。。
近年、製品の開発期間が凄まじいほど短くなっています。そのため、試作の回数を減らしてシミュレーション回数を増やす企業が増えています。開発期間を短くするには、構造設計者も少なからずシミュレーションの基礎は必ず必要な状況になっています。
この記事では、構造設計者がシミュレーションを学ぶ必要性から、効果的なシミュレーションの使い方まで解説します。
シミュレーションを専門にしていない方でも、シミュレーションを使いこなして製品開発の期間を短くできるノウハウ が読めます。
構造設計者がシミュレーションを学んで使うことで、3回必要な試作回数が1回になります。そして、不要な実機評価をする必要がなくなるので、1~2か月製品開発期間短縮につながります。
シミュレーション技術を習得すべき3つの理由
構造設計者がシミュレーションを習得した方がよい理由は次の3つです。
- 試作回数を減らすことができるので、製品開発期間を短くできる。
- シミュレーションの結果が設計根拠にすることができる。
- シミュレーションを学ぶことで構造設計だけなく、熱や光など専門の幅を広げられる。
製品開発期間を短くできる
開発期間を短くしてリリース日を早める動きも進んでいます。少しでも競合相手より先に製品をリリースしてお客様を獲得するためです。そして年の製品の傾向は次の方向に進んでいます。
- デザインをよくするため、筐体全体の複雑化が進んでいる。
- 携帯性に優れるように小型化が進んでいる。
一方で複雑化、小型化の問題点は次の通りです。
- 部品の配置が難しい。
- 筐体の複雑化によって部品の製法に気を付ける必要がでる。
- 電気製品の場合、熱対策が必要。
特に小型化が進むと筐体の中に入れる部品をどのようにして配置するかだけでもかなりの時間を要します。さらに電気製品の場合、熱に弱い電子部品を筐体内部にいれるので、放熱方法も事前に検討が必要です。
今までは、電子部品は電気屋さんの領域でした。電子部品の熱設計を終えた電子部品をデザインを考えながら構造設計者は設計すれば問題ありませんでした。
でもここ数年で、小型化が進むにつれて電気屋さんの領域だけでは放熱ができなくなりました。筐体側の放熱込みで電子部品を設計するようになりました。そのため、筐体で放熱対策する必要があります。
結果として現在熱設計は、構造設計者も担当範囲となっていることが多いです。
ここで登場するのがシミュレーションです。シミュレーションのメリットは次の通りです。
- シミュレーションを行うことで自分で考えた設計通りにできているか確認できる。
- 試作を作る必要がなく、何度も設計し直せる。
- シミュレーション結果は見える化できるので、問題があるところも共有化しやすい。
シミュレーションを使うことで、熱や応力の状況が試作を作成せずに見ることができるよ!
一方でデメリットは次の2点が多いかと思います。
- ソフトが複雑で使えない。
- 実機で測定した値とシミュレーションの結果が外れすぎていないか心配。
シミュレーションの使い方によっては、十分構造設計者でも使用することができます。シミュレーションを使うことで、試作を作らなくても筐体設計ができるのは設計しゃにとってはかなりの強い武器です。
壊れやすい部分についても今まで経験則で行っていたものが可視化されるので、試作と評価を繰り返す時間を減らすことができます。結果として製品開発期間を短縮することができます。
設計根拠が持てる
シミュレーションは、構造の弱いところや強化したほうが良いところを数値や色で見える化できます。そのため、当初の設計思想の方向性がブレていないかを試作をつくる前に確かめることができます。
ただし、シミュレーションだけでは実環境の測定と合わないところがどうしても出てきますので、最終的には試作で評価します。
そして、この試作を作る期間がとても長い。製品によって違いますが、部品点数が少ない製品でも1~3か月程度かかります。
試作を作って評価するのは、当初の設計思想に間違いがないかを確かめるために必要であるが、シミュレーションは立派な設計思想の根拠として使うことができます。また、この試作で評価する行為をシミュレーションですることで、開発期間短縮につながります。
構造設計者として幅が広がる
構造設計者に必要な知識としては、例えば次の内容があります。
- 材料力学
- 流体力学
- 製図知識など
より詳しく見たい方はこちらの記事も参考にしてください。
>> 構造設計者として成功する本当に必要な知識・技術を5つ厳選解説!【実践に役立つアイデア思考法も伝授!】
知識は当然構造設計を行う上で必要です。でも構造設計一筋の場合、より設計できるヒトがいた時点で潰しがきかなくなる可能性があります。
でもシミュレーションを学んである程度使いこなすことで、構造設計をしながら試作を作らずに検証ができます。つまり構造設計以外にもう一つの武器を手に入れることで、専門の幅を持たすことができます。
専門の幅を持たせるメリットは次のとおりです。
- 1つの仕事がダメになっても、違う仕事で補える。
- 会議の場などでその場で理解でき、すぐに仕事に活用できる。
- 転職にも役立つ。
一方で専門に幅を持たせることのデメリットは、ズバリ「知識・技術の習得に時間がかかる」ことです。しかし、シミュレーションは使い方によってはすぐに習得して構造設計のスキマ時間などを活用して検証させることができるので、シミュレーションを学ぶ意義は大いにあります。
結果的にシミュレーションを使えるようになることで、技量の幅増えて仕事での活躍が増えたり、転職に有利になる可能性があります。シミュレーションは習得しておいて損はありません。
構造設計者がシミュレーションを正しく使う方法2選
構造設計者はシミュレーションを専門に扱うわけではないので、使い方・知識については注意が必要です。構造設計者がシミュレーションを使う上で重要なことは次の2つです。
- 電卓のように扱う。
- シミュレーションの原理まで覚えない。
電卓のように扱う
構造設計者はシミュレーションを電卓のように扱うことを考えてくだい。これを言われるとどのようなイメージを持つでしょうか?ここでいう「電卓のように扱う」とは次のことを指します。
- 電卓は誰でも簡単にボタンを押すだけで演算処理をしてくれる機械である。
- 電卓は複雑なことはできない。
- 電卓は難しい計算をすることは苦手である。
構造設計者がシミュレーションを使いこなすには、かなり簡単なコマンドでできる必要があります。要は複雑作業は一切しないことが大切です。
手順に落とすなどを企業ではやったりしますが、この「簡単」さというものを考えながら作業や手順化する必要があります。
このときに注意が必要です。一種のデメリットとも言えます。
簡単な作業をする場合、緻密な計算をしないので数値の絶対値表示が難しい。
絶対値表示が難しい。これが意味するところは、試作で評価した時の値と少しズレが生じるということです。絶対値と数値がズレるなら意味がないでしょう?と思われる方がおられるかもしれませんが、構造設計者がシミュレーションで見るポイントは次の項目で十分です。
- 絶対値から大きくズレていなければよい
- 絶対値から±10%以内にシミュレーション結果があれば十分です。実際の製品でもバラつきは存在しますので、ある試作の評価の結果と完全に一致させる必要はありません。完全に一致させようと思うとシミュレーション時間が長くなったり、設定条件が複雑化され、構造設計者では使えなくなります。
- 2つ以上のアイデアを出した時の相対的な比較ができれば十分
- 絶対値から大きくズレないことが分かった上で、2つの比較に用います。1回目に考えた設計から少し改善を加えた2回目の設計の方がある部分がよくなったかどうかを見える化できれば十分です。最終的には試作を作って評価は必要なります。この試作と評価の回数を減らすことができればよいのです。
構造設計者はシミュレーションのプロではありません。シミュレーションのプロでも絶対値を合わせるのは容易ではありませんし、絶対値を合わせるのに時間がかかります。
構造設計者がシミュレーションを使う場合、電卓のように簡単に使えて、設計上もろいところだけをシミュレーションで把握できれば、十分に設計根拠として使うことができます。
シミュレーションの詳しい原理までは覚えない
手計算ができないような複雑な解析の場合、計算しやすいように簡単にする必要があります。複雑な計算を簡単にするにはメッシュを使います。一つ一つのメッシュを計算してその計算結果を元に全体の影響を考えていくのがシミュレーションの基本計算です。
メッシュとは?
解析した物体を単純な立体形状(四角柱や三角柱など)をした要素に分割したモノです。有限要素モデルなどと呼ばれたりする。(出展:CYBERNET)
3Dモデル上のメッシュ形状は次のようにあらわされます。あくまでも例です。
メッシュを細かくすると時間はかかりますが、計算の精密さはあがります。
大枠のシミュレーション原理は説明できました。シミュレーションの基礎知識は、シミュレーション時間と精密さにかかくる部分なので必要なので、覚えておいて損はありません。
ただし、これ以上のシミュレーションの詳しい特徴までは不要です。
構造設計者はシミュレーションのプロではなく、あくまで構造設計のプロだからです。シミュレーションを簡単に確実に成果を出せるだけの知識があれば十分です。
シミュレーションツールおよび書籍の紹介
ここでは、構造設計者がシミュレーションをはじめて使って学びたい向けのソフトと書籍を紹介します。紹介する分野は次のとおりです。
- 応力解析
- 熱解析
構造設計者はこの2分野についてよく設計で求められます。そのほかにもノイズや光学などいった解析ソフトもありますが、ここではよく使う分野に絞って「ソフトと書籍」の観点から紹介していきます。
無料ソフト
ソフトについては、無料の場合はできることが少ないので、できれば有料が良いです。ただし、有料版はコストと維持費がかなり高いので、ここでは簡単なシミュレーションであれば解析ができる無料版についてのみ紹介します。
応力解析
「Abaqus Student Edition」です。後で紹介しますが書籍もあります。またネットにも操作方法が載っていますので始めやすいです。
- 学生、個人が無料で使用できますが、商業用としては使えません。
- 複雑なモデルの解析はできない。
- 英語のみの取扱説明書。
もう一つが、
「Simcenter Femap with NX Nastran」です。こちらも書籍およびネットでの操作方法があります。
- 30日はすべての操作が可能。
- 30日後は操作制限が加わり、複雑なモデルの解析はできない。
熱解析
PICLS Liteです。基板設計用にはなりますが、直観的操作が売りとなっています。
- 直観的な操作。
- リアルタイムで結果表示。
- 電子部品の温度状況を把握可能。
「Simcenter Femap with NX Nastran」です。こちらも書籍およびネットでの操作方法があります。こちらは応力解析だけでなく、熱解析も可能です。
- 30日はすべての操作が可能。
- 30日後は操作制限が加わり、複雑なモデルの解析はできない。
書籍
応力解析
「Simcenter Femap with NX Nastran」 の無料版で動かすための「静解析編」です。インストール方法から記載されていますので、大変わかりやすいです。
「Simcenter Femap with NX Nastran」 の無料版で動かすための「振動解析編」です。振動に関する解析に特化した書籍です。インストール方法から記載されていますので、大変わかりやすいです。
熱解析
ソフトではなく、Excelで計算を行う手法の書籍です。シミュレーションだけでなく、熱解析の基本も記載されています。さらに電気専門の方と機械専門の方のそれぞれの対策方法が記載されており、その対策がかなり具体的な方法がのっており、わかりやすい。
「Simcenter Femap with NX Nastran」 の無料版で動かすための「熱解析編」です。複雑な解析はできませんが、 シミュレーションの方法を学ぶにはやりやすいソフトであり書籍です。ただし、正直製品には使えないので、あくまでも練習用です。
最後に:構造設計者もシミュレーションを使いこなそう!
今回の記事のまとめです。
- シミュレーションを使いこなすことで、試作回数が減るので開発期間短縮ができる。
- シミュレーションは設計思想の立派な根拠になる。
- 構造設計者はシミュレーションを電卓レベル使いこなし、決して絶対値を追わない。
今回の記事を参考にぜひシミュレーションを使いこなして開発期間を短縮してぜひバンバン製品を開発してください!